「エッジワイズ法の歴史」について
こんばんは総院長の東海林です。
今回はエッジワイズ法という矯正の中でもスタンダードで歴史の深い治療についてお話したいと思います。エッジワイズ法は、現代の矯正治療においても重要な役割を果たしています。
最近では、リンガルブラケット(舌側にブラケットをつける方法)やアライナー(透明なマウスピース型の装置)などの新しい治療法も登場していますが、それらもエッジワイズ法の原理を応用したものです。エッジワイズ法は、歯列不正の原因やメカニズムを理解し、個々の患者様に合わせた最適な治療計画を立てるために必要な基礎となる部分です。エッジワイズ法の歴史を知ることは、矯正治療の本質や目的を掴むことにつながります。
エッジワイズ法とは、歯科矯正治療において、歯の表面に小さな金属(ブラケット)を貼り付け、そこにワイヤーを通して歯を動かす方法です。この方法は、現在でも多くの歯科医師や患者様に選ばれている矯正の一つですが、その歴史は約100年に及びます。
今回は、エッジワイズ法の発明者であるDr. Edward Angleとその弟子たちが築き上げたエッジワイズ法の歴史と進化について紹介します。
■エッジワイズ法の誕生
エッジワイズ法の発明者であるDr. Edward Angleは、1855年にアメリカのペンシルバニア州で生まれました。彼は1876年に歯科医師となり、1886年には矯正歯科学の教授となりました。彼は矯正治療における分類法や診断法を確立し、矯正歯科学の父と呼ばれるようになりました。
Dr. Angleは、当時の矯正装置が不十分であると感じ、自ら新しい装置を開発しました。彼が最初に考案した装置は、リボンアーチ装置と呼ばれるものでした。これは、歯の裏側に金属リボンを貼り付け、そこにアーチ型のワイヤーを固定するものでした。なんとこの時には金属に18Kを使用していたのです。いまでは考えられません。
この装置では、歯の動きを細かくコントロールすることが難しかったため、彼はさらに改良を重ねました。
そして、1925年に彼が完成させた装置がエッジワイズ装置でした。これは、歯の表面にブラケットを貼り付け、そこに四角い断面のワイヤーを通すものでした。この装置では、ブラケットとワイヤーの間に摩擦力が働き、歯を回転させたり傾けたりすることができました。また、ワイヤーを曲げたりねじったりすることで、歯列全体を整えることもできました。アングルは、このエッジワイズ法を用いて、非抜歯治療を主張しました。彼は、神が与えた32本の歯を全て残すべきだと考えており、抜歯することは罪だと言っていました。
※ 画像引用:『矯正歯科治療 エッジワイズ法入門』三谷英夫【著】/東京臨床出版
■エッジワイズ法の発展
エッジワイズ法の特徴は、ブラケットにスロット(溝)があり、そこにワイヤーを通すことで、歯の移動方向や力量を細かく調節できることです。また、ブラケットは歯ごとに形や大きさが異なり、個々の歯に合わせて作られていました。
しかし、アングルの非抜歯治療には問題がありました。それは、歯槽骨(歯を支える骨)の大きさや形に合わせて歯を移動させる必要があるということです。もし、歯槽骨を超えて歯を移動させると、後戻りや顎関節症などの合併症が起こりやすくなります。また、非抜歯治療では上下の前歯部分が前方に突出する傾向があり、「馬面」と呼ばれる不自然な顔貌になる場合もありました。
アングルの弟子の中でも特に優秀だったチャールズ・トゥイード(Charles Tweed)は、この問題に気づきました。彼は、アングル没後の1940年に、「抜歯による矯正の再治療100例」という論文を発表しました。この論文では、非抜歯治療で「馬面」になってしまった患者たちを抜歯して再治療した結果、より自然で安定した咬合関係や顔貌が得られたことを示しました。トゥイードは、「必要ならば抜歯する」という考え方を提唱しました。これがスタンダード・エッジワイズ法と呼ばれる方法です。
スタンダード・エッジワイズ法は、日本でも1972年に与五沢文夫によって紹介されました。与五沢は、トゥイードの教えを受けた最初の日本人であり、その後も多くの日本人歯科医師にスタンダード・エッジワイズ法を指導しました。現在でも、与五沢ファウンデーションという研究会が活動しており、スタンダード・エッジワイズ法の臨床結果や技術の向上に努めています。
また、エッジワイズ法ではブラケットやワイヤーの材料や形状も変化してきました。1950年代には、ブラケットは貴金属製からステンレス鋼製になりました。これにより、ブラケットの製造コストや加工性が向上しました。また、ワイヤーにもステンレス鋼やコバルトクロム合金のほかに、ニッケルチタン合金やベータチタン合金などの弾性を持つ材料が使われるようになりました。これにより、ワイヤーの交換回数や矯正力の調整が減少しました。
さらに、エッジワイズ法では審美性や快適性も重視されるようになりました。ブラケットには、プラスチックやセラミックなどの目立たない材料が使われるようになり、歯の裏側にブラケットを貼り付けるリンガルブラケットも開発されました。これらの装置は、見た目や感触が気になる患者様に選ばれるようになりました。
※ 画像引用:『矯正歯科治療 エッジワイズ法入門』三谷英夫【著】/東京臨床出版
■エッジワイズ法の現在と未来
エッジワイズ法は、その歴史と進化の中で、歯科矯正治療の基本的かつ有効な方法として確立されました。しかし、エッジワイズ法は決して完全な方法ではありません。エッジワイズ法には、以下のような欠点や課題もあります。
- 食べ物や歯垢を引っかけやすく、口腔衛生管理が難しい。
- 歯肉や頬粘膜を刺激しやすく、痛みや炎症を引き起こすことがある。
- ブラケットやワイヤーが目立つことで、患者の審美的・心理的ストレスを増加させることがある。
- ブラケットやワイヤーの調整には歯科医師の技術や経験が必要であり、治療結果に個人差が生じることがある。
- ブラケットやワイヤーの調整には時間と費用がかかり、治療期間が長くなることがある。
これらの欠点や課題を解決するために、エッジワイズ法以外の矯正装置も開発されています。例えば、マウスピース型矯正装置(アライナー型矯正装置)は、透明なプラスチック製のマウスピースを歯に装着して歯を動かす方法です。この装置は、以下のような利点を持ちます。
- 取り外しができるため、食事や歯磨きの際に邪魔にならない。
- 透明で目立たないため、審美的・心理的ストレスを軽減できる。
- コンピューターで設計されるため、治療計画や結果が予測できる。
- 自宅で交換できるため、通院回数や治療期間が短縮できる。
しかし、マウスピース型矯正装置にも以下のような欠点や課題があります。
- 歯の動きに限界があり、複雑な症例には適用できないことがある。
- マウスピースは装着時間や頻度に患者の自己管理が必要であり、それができないと治療効果が低下することがある。
- マウスピースは高価であり、保険適用外であることが多い。
このように、エッジワイズ法とマウスピース型矯正装置は、それぞれに利点と欠点を持っています。
まとめ
いかがでしたでしょうか。エッジワイズ法は、歯科矯正治療の歴史と進化を刻んできた方法です。その発明者であるDr. Angleとその弟子たちが築き上げたエッジワイズ法の理論と技術は、現在でも多くの歯科医師や患者様に受け入れられています。
当院ではエッジワイズ法の治療のみならずそこから発展した舌側矯正やマウスピース矯正全て治療が可能です。歴史を含めて学んでいくことでそれぞれの治療方法に対しての理解が深い歯科医師も多く在籍しています。
その中から患者様にとってより良い治療をご提案させていただきます。
参考書籍
『矯正歯科治療 エッジワイズ法入門』三谷英夫【著】
東京臨床出版
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