フルパッシブ矯正と
シザーズバイトの矯正治療について
こんにちは総院長の東海林です。
今回は私が購読しておりますJOP「矯正臨床ジャーナル」の内容からお話したいと思います。
余語良章先生(余語歯科矯正歯科)田村元先生(田村矯正歯科)によるフルパッシブ矯正の理論と臨床という連載となっておりますが、今回はレジンマウント法の特徴−各個人がもつ自然な顎位への誘導という内容です。
田村元先生が考案したレジンマウント法は従来のシザーズバイト改善の治療とは異なり、矯正治療における顎位を自然な位置へと誘導できる点が素晴らしい治療方法です。
まずはそちらについてのお話する序章として、フルパッシブ矯正やシザーズバイトの矯正治療についてお話いたします。
フルパッシブ矯正とは
フルパッシブ矯正とは、歯並びを改善するための新しい矯正治療法です。
まさにこちらも田村元先生が考案した治療法なのです。
従来の矯正治療法とは異なり、ワイヤーと歯に付けているブラケットを結びつけないことで、歯にかかる力を最小限に抑えることができます。
フルパッシブ矯正の仕組み
フルパッシブ矯正では、ブラケットにキャップと呼ばれる可動式の蓋が内蔵されています。
キャップはワイヤーを優しく挟み込むように設計されており、ワイヤーとブラケットの間には十分な隙間があります。
この隙間を遊び(Play)と呼びますがわかりやすいように隙間と表現させていただきます。
この隙間により、ワイヤーは自由に動くことができ、歯にかかる力は必要最低限になります。
また、キャップは様々な種類があり、歯の傾き(トルク)や回転(ローテーション)などを調整することができます。
フルパッシブ矯正は、日本で発案開発された東洋人向けの矯正治療法です。
東洋人は欧米人に比べて顎骨が小さく、歯並びが悪い場合が多いと言われています。
そのため、従来の矯正治療法では歯や歯槽骨に過度な力がかかり、痛みや歯肉のトラブルなどを引き起こす可能性がありました。
しかし、フルパッシブ矯正では、弱い力でスムーズに歯を動かすことができるため、これらの問題を回避することができます。
フルパッシブ矯正のメリット
フルパッシブ矯正には以下のようなメリットがあります。
◎痛みが少ない
ワイヤーとブラケットの摩擦抵抗が少ないため、歯や歯周組織にかかる力が弱くなります。
その結果、治療中や調整時の痛みや不快感が軽減されます。
◎治療期間が短い
ワイヤーとブラケットの滑りが良いため、歯の移動がスムーズになります。
その結果、治療期間が従来の方法よりも約半分程度に短くなると言われています。
◎歯・周組織へのダメージが少ない
弱い力で動かすため、歯周組織への負担が少なくなります。
その結果、歯肉の腫れや出血、歯周病などのリスクが低くなります。
◎生理的な状態で治療できる
ワイヤーとブラケットの間に隙間があるため、歯が生理的な状態を保ったまま治療されます。
その結果、顎関節や噛み合わせの機能が損なわれず、治療後の安定性も高くなります。
フルパッシブ矯正のデメリット
フルパッシブ矯正には以下のようなデメリットがあります。
◎費用が高い
フルパッシブ矯正は、従来の方法よりも高度な技術と装置を必要とするため、費用が高くなります。
一般的には、従来の方法よりも約10万円程度高いと言われています。
◎装置が目立つ
フルパッシブ矯正は、表側にブラケットとワイヤーを装着するため、見た目が目立ちます。
また、キャップは色付きのものが多いため、さらに目立つ可能性があります。
◎装置の管理が大切
フルパッシブ矯正は、キャップやワイヤーが動きやすいため外れやすいという欠点があります。
そのため、装置の管理に注意が必要です。
◎噛み合わせが深くなることがある
噛み合わせが深い方はフルパッシブ矯正によってさらに深くなる可能性あるため、
他の矯正方法を選択する場合もあるでしょう。
フルパッシブ矯正の適応や効果は個人差があります。
シザーズバイトとは
シザーズバイトとは、上顎の奥歯が外側に、下顎の奥歯が内側に傾いて、ハサミのようにすれ違っている噛み合わせのことです。
この噛み合わせは見た目だけでなく、健康にも悪影響を及ぼす可能性があります。
シザーズバイトの原因
シザーズバイトの原因は、主に以下の3つです。
◎上下顎骨の発育不全
下顎骨が小さく、歯が排列するスペースが不足している場合、歯が互いに押し合って傾くことがあります。
特に最後に生える第二大臼歯(前から7番目の歯)や第三大臼歯(親知らず)は、上顎結節という骨の終わりを越えて生えることが多く、外側に飛び出してしまいます。
◎第三大臼歯(親知らず)の影響
第三大臼歯は早く形成され始めると、その前方の第二大臼歯を押して傾かせることがあります。
また、第三大臼歯が乱杭歯という状態で生えてきたり、生えなかったりすることもシザーズバイトの原因になります。
◎咬合力の不均衡
上下顎の奥歯がしっかり噛み合っていない場合、咬合力が不均衡になります。
その結果、噛み合っていない歯は徐々に垂れ下がってきたり、噛み合っている歯は圧迫されて磨耗したりします。
これも歯の傾きを招くことがあります。
シザーズバイトのリスク
シザーズバイトを放置すると、以下のようなリスクがあります。
◎咀嚼機能の低下
奥歯がしっかり噛み合っていないため、食べ物を上手く咀嚼できません。
これは消化不良や栄養不足を引き起こす可能性があります。
また、食べ物が奥歯の隙間に詰まりやすくなり、虫歯や歯周病の原因にもなります。
◎顎関節症の発症
シザーズバイトは下顎を後方に引っ張る力がかかります。
そのため、顎関節(あごを動かす関節)に負担がかかります。
これは顎関節症という症状を引き起こす可能性があります。
顎関節症は口を開けるときに痛みや音がする・口を大きく開けられない・頭痛や肩こりなど全身的な不調を引き起こすなどの症状があります。
◎審美性の低下
シザーズバイトは見た目にも美しくありません。
特に笑ったときに上顎の奥歯が外側に飛び出して見えると、印象が悪くなります。
また、シザーズバイトは上顎前突や
過蓋咬合(上顎の前歯が下顎の前歯に深く重なっている状態)と併発することが多く、これらも審美性を低下させます。
◎下顎の偏位
シザーズバイトは下顎の位置が偏位になりやすく、それに伴って下顎の成長が非対称になる可能性がります。
また顎位の不安定さも誘発されます。
シザーズバイトの治療法
一般的な治療法は以下です。
◎矯正治療
シザーズバイトを治すためには、歯を正しい位置に移動させる必要があります。
そのため、矯正治療が最も効果的な方法です。
矯正治療では、ブラケットやワイヤーなどの装置を使って、歯を徐々に動かしていきます。
また、シザーズバイトの原因によっては、歯を抜いたり、顎の骨を切ったりする必要がある場合もあります。
矯正治療は個人差がありますが、通常は数年かかります。
◎咬合挙上板(バイトプレート)
咬合挙上板とは、プラスチック製の板でできた装置で、上顎の前歯に沿うように装着します。
この装置は下顎の前歯が当たるようになっており、奥歯を少し離すことで噛み合わせを浅くします。
これにより、下顎の奥歯が上方に移動しやすくなり、シザーズバイトが改善されます。
咬合挙上板は取り外し可能で、痛みも少ないですが、効果を得るためには1日のうちできるだけ長く装着する必要があります。
また、咬合挙上板は主に子どもの治療に適しており、大人の場合は効果が限定的です。
シザーズバイトの改善方法にはこのような方法がありますが、バイトプレートなどでは顎位が不安定な方向に作用することがあります。
すると前述しましたシザーズバイトによる弊害を改善することは難しくなります。
そこで出てくるのがレジンマウント法です。
レジンマウント法は個人がもつ自然な顎位に誘導させながらシザーズバイトを改善することが可能です。
またフルパッシブ矯正との相性も良いのです。
今回の話を踏まえて次回、“レジンマウント法について”お話させていただきます。
>>次回「レジンマウント法について」
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