第31回日本成人矯正歯科学会
函館大会に参加しました〈後編〉
こんにちは。総院長の東海林です。
今回は第31回日本成人矯正歯科学会函館大会へ参加したレポートの続きです。函館大会の学会会員向けシンポジウムでは「当院におけるデジタル化技術の臨床応用」という田井規能先生のお話がとても興味深く拝聴しました。
近年アライナー矯正については厚生労働省からも見解について発表されるなどがとても話題になるトピックです。田井先生はアライナー矯正に対する肯定的な論文、否定的な論文をそれぞれ5つ上げてエビデンスベースで良い点や悪い点といった内容をまとめてお話しいらっしゃいました。
渋谷矯正歯科でもアライナー矯正を行っております。しかし当院では、裏側矯正などアライナー矯正以外にもさまざまな矯正治療が可能なため、アライナー矯正をご希望の方であってもより良い治療のために必要であると判断した場合はコンビネーション矯正などもご提案させていただいております。
今回は厚生労働省の見解のお話やコンビネーション治療についてお話させていただきます。
■アライナー矯正とは?
アライナー矯正とは、マウスピース矯正のことで透明なマウスピース型の装置(アライナー)を着脱式で使用して、歯列を整える方法です。有名なものではインビザラインがあります。従来のブラケットやワイヤーを使った矯正治療と比べて、見た目が目立たない、口腔内が清潔に保てる、食事や歯磨きがしやすいなどのメリットがあります。しかし、アライナー矯正には適応範囲や制限事項もあります。また、アライナー矯正は日本国の薬機法(旧薬事法)上の医療機器には該当しないという厚生労働省の見解があります。
■アライナー矯正に対する厚生労働省の見解とは?
厚生労働省は、2014年7月9日に公益社団法人日本矯正歯科学会からの問い合わせに対して、以下のような見解を示しました。
- アライナー矯正は、海外で製作されたものも国内で製作されたものも、歯科技工士法上の矯正装置にも薬機法上の医療機器にも該当しない。
- アライナー矯正を行う歯科医師は、個人の全責任において使用すること。
- アライナー矯正を行う歯科医師は、患者に対して、アライナー矯正の目的、必要性、有効性、他の治療法、さらにアライナー治療が不十分な場合の代替治療の受容などについて十分な説明を行い、理解と同意を得ること。
- アライナー矯正は医薬品副作用被害救済制度の対象外である。
■アライナー矯正の注意点と安全性は?
厚生労働省の見解からわかるように、アライナー矯正は日本国の法律上では規制されていません。そのため、アライナー矯正を行う歯科医師や製作する企業・技工所などには高い倫理観や専門性が求められます。また、患者さんも自己責任でアライナー矯正を選択する必要があります。
アライナー矯正における注意点と安全性については、以下のようなことが挙げられます 。
- アライナー矯正は適応範囲が限られており、複雑な歯列不正や骨格性の不正には対応できない場合がある。また、歯の移動量や方向によっては、アライナー矯正だけでは不十分な場合がある。
- アライナー矯正は装着時間に影響されるため、患者さんの協力度が高くなければならない。一日に20時間以上装着することが推奨される。また、定期的に歯科医師の診察を受けることが必要である。
- アライナー矯正は術前のシミュレーションに歯根の位置に関する情報が欠けているため、歯根の移動や歯周組織の健全性を十分に評価することができない場合がある。そのため、歯科用コーンビームCT(CBCT)などの三次元診断を併用することが望ましい。
- アライナー矯正は歯冠形態や咬合面によっては把持力に差異を生じることがあるため、アタッチメント(歯に貼り付ける小さな突起)やエラスティック(ゴム)などの補助装置を使用することがある。これらの装置は見た目や装着感に影響することがある。
- アライナー矯正は保険診療には使用できないため、自由診療となり、費用負担が大きくなる場合がある。また、治療中や治療後にトラブルや後戻りが発生した場合、追加費用や返金の対応は歯科医師と患者さんの間で話し合う必要がある。
以上のようにアライナー矯正は日本国の薬機法上の医療機器には該当しないという厚生労働省の見解がありアライナー矯正における注意点と安全性についても理解しておくことが大切です。そのためにもアライナー矯正開始前には歯科医師との信頼関係が大切です。
■コンビネーション矯正の定義とメリット
次にコンビネーション矯正についてです。
コンビネーション矯正は、一般的には治療の前半にブラケット矯正(主に裏側矯正)を行い、歯の凸凹や捻じれなどを解消し、治療の後半にマウスピース矯正を行って微調整をするという流れになります。
ブラケット矯正は歯を動かしやすい上に前歯部分を奥に引き込みやすく、3次元的にすべての歯の動きが可能です。しかし、ブラケットの脱離や口内炎などの可能性があり、食事や歯ブラシがしにくく、発音する際に違和感がある場合があります。
マウスピース矯正は透明で目立たなく、ブラケットの脱離や口内炎などの可能性が低く、歯ブラシ時に外せるので清潔に保てます。しかし、歯の動く治療スピードが遅く、対応できない症状や歯を動かせる方向に制限がある場合があります。
コンビネーション矯正では、ブラケット矯正の歯を動かしやすさとマウスピース矯正の審美性や利便性を組み合わせることで、よりスマートで快適な治療ができます。さらに最新のデジタル矯正システムを用いることで、患者さんの歯列や咬み合わせをシミュレーションし、最適な治療計画を立てることがでるのです。
■コンビネーション矯正で対応できる症例
コンビネーション矯正は、一般的なブラケット矯正やマウスピース矯正と同様に、さまざまな歯並びや咬み合わせの問題に対応できます。例えば、
- 上の歯が出っ歯や八重歯などで目立つ場合
- 上下の歯の噛み合わせが悪く、上の歯を裏側からワイヤーで動かす必要がある場合
- 上下の歯の噛み合わせが悪く、下の歯を表側からワイヤーで動かす必要がある場合
- 上下の歯の噛み合わせが悪く、上下ともに裏側からワイヤーで動かす必要がある場合
などに適用できます。
ただし、コンビネーション矯正は、個人差や症状の程度によって治療方法や期間が異なります。また、コンビネーション矯正は、ブラケット矯正とマウスピース矯正の両方のメリットを享受できる反面、両方のデメリットもあることを忘れないでください。
■コンビネーション矯正治療の流れ
・治療前のカウンセリングや診断
まずは、歯科医師とカウンセリングを行って、治療の目的や不安などはないか相談します。歯科医師は、患者様の歯列や噛み合わせを診断し、コンビネーション矯正が適切かどうかを判断します。
・治療前半の裏側矯正
次に、裏側矯正を行います。裏側矯正では、歯の裏側にブラケットとワイヤーを装着して、歯を動かします。裏側矯正は、治療期間の約2/3程度行います。
・治療後半のマウスピース矯正
次に、マウスピース矯正に切り替えます。マウスピース矯正では、透明なプラスチック製のマウスピース(インビザライン)を装着して、歯を動かします。マウスピース矯正は、治療期間の約1/3程度行います。
治療の長さや期間については個人差があり前後いたしますのでその点はご了承ください。
今回の学会では我が母校の恩師でもある北海道医療大学歯学部歯科矯正学分野の教授飯嶋雅弘先生による「矯正臨床における3Dプリント – 現状と未来」という特別公演がありました。3Dプリンターで作られるマウスピースはプラスチックでできています。つまり使用後ゴミになった場合環境的にはNGです。教授は未来の地球のことまでを見据えて現在環境に優しい材料を使ってマウスピースを制作するための研究をしていらっしゃるとのこと。
この思慮深い発想には敬服致しました。
渋谷矯正歯科でも幅広く、今後の歯科矯正の発展に携わることができるよう尽力していきたいと思います。
最後になりましたが、この度の「認定矯正歯科衛生士2級」に当院のスタッフからも1名合格いたしましたことをご報告いたします。それではまた次回。
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