「札幌医科大学口腔外科・同門会」に
参加しました
みなさんこんにちは。総院長の東海林です。
先日「札幌医科大学口腔外科・同門会」に参加してまいりました。
今回のテーマは唇顎口蓋裂の「cleft surgery」という治療法についてです。
講演会では、前半に大学院生による「シスプラチン」と「口腔がん」に関する発表があり、その後に、私の恩師でもある野口誠先生の講演が行われました。ここでは野口先生の講演内容に焦点を当てています。
口唇口蓋裂とは?
口唇口蓋裂とは、顔面の先天異常の中で最も多く見られるもので、胎生8週までの胎芽期における発育障害の結果として発生すると考えられています。その病態は、口唇裂、口蓋裂、唇顎口蓋裂の3つに大別されます。
口唇口蓋裂の臨床統計
口唇口蓋裂は、人種によって発生頻度が異なります。日本人を含めたアジア人では約500人に1人の割合で発症しており、白人や黒人よりも発生頻度が高いことがわかっています。人種間で発生率に差が見られる真因は不明ですが、候補遺伝子や頭蓋顔面形態が異なっている点が関係しているものと思われます。症候性ではない口唇口蓋裂は、環境的要因と遺伝的要因の両者が関わり合って発生する「多因子性疾患」であると考えられています。
口唇口蓋裂の治療法
口唇口蓋裂は、次のようなチャートに沿って治療を進めていきます。
口唇だけでなく、口蓋まで避けている症例では、哺乳が難しいことから哺乳指導およびHotz(ホッツ)床と呼ばれる装置を使った治療から始まります。ホッツ症とは入れ歯のような装置で、歯型取りを行う必要があります。歯型の印象材は流動性があるため、生後1か月の赤ん坊に行う際には大きな困難を伴います。私自身、札幌医大時代、行う機会があったため、その大変さは十分に理解しているつもりです。赤ん坊が暴れた場合は押さえつけておかないと、印象材で気道が塞がれて窒息する恐れもあったため、こちらとしても命がけのような処置となっていました。
Hotz床について
Hotz床は、唇顎口蓋裂児に適応されるものです。軟性レジンは体温程度の熱で軟化するため、赤ん坊の粘膜面に潰瘍を形成するリスクが少なく、歯槽部の発育を妨げにくいという利点があります。床の装着によって舌が硬口蓋破裂部に侵入することを防ぎ、舌位置の正常化をはかれる点もメリットです。ちなみにHotz床には、顎発育誘導の効果も期待できます。患児が本来有する顎成長能を利用して、偏位した歯槽部を矯正する受動的顎矯正装置としての機能も有しているのです。
口唇を形成して授乳を可能にする
Hotz床を装着したら、3~6ヵ月の間に口唇形成術を実施します。そこでまずは口唇がきれいになるのです。野口先生には、直線法のメリットについて教えていただきました。
口唇形成術について
口唇形成術の目的は、自然に見える左右対称的な上唇と外鼻を形成することです。手術時期は生後間もない新生児期と生後3~6ヵ月を経過した時期とがありますが、ほとんどの医療機関では後者に行っています。
手術法は、TennisonやRandallに代表される「三角弁法」と「Millard法」など、いくつかの種類があります。
三角弁法は、破裂内側のキューピッド弓頂点から人中部に直線状の横切開を加えて、キューピッド弓頂点が左右対称となるように患側キューピッド弓頂点を下降させ、そこに生じた組織欠損部を破裂外側下方の三角弁を用いて補填する方法です。この方法は、左右対称なキューピッド弓を形成しやすいという特長があります。
Millard法は、鼻柱下部を横断して破裂内側のキューピッド弓頂点に達する弓状切開を行い、患側キューピッド弓頂点を下降させて、そこに生じた組織欠損に患側口唇を伸展させて挿入する方法です。この方法では、鼻柱の整直が用意で、残存する人中陥凹や見かけ上の人中稜など自然に見える上唇と外鼻を形成しやすいです。
口蓋を形成して言語を獲得する
口唇の形成が完了し、1歳くらいになると「口蓋形成術」を行います。軟口蓋、口蓋孔、硬口蓋を閉鎖して、正しい言語機能を獲得するための手術です。当時、富山では口唇口蓋裂の手術を行える先生がおらず、患者さんは皆、赤ん坊を連れて金沢まで治療を受けに行っていました。野口先生が来るようになってからは、その必要がなくなりました。野口先生がすごいのはそれだけではありません。インドネシアの医療技術は十分に発達していないのですが、口唇口蓋裂の子は一定の確率で生まれてくるため、適切に対処する必要があります。そこで野口先生は、ボランティアとしてインドネシアまで赴き、現地のドクターへの技術指導を行ってきたのです。医療人の鑑のような方です。
口蓋形成術について
口蓋形成術の主な目的は、良好な鼻咽腔閉鎖機能を持つ口蓋を形成し、正常な言語を獲得することです。硬口蓋閉鎖を目的とした口蓋形成術は生後1歳6ヵ月ごろに実施しますが、それは言語能力が急速に発達する時期にあたるからです。
口蓋裂の代表的には術式である「口蓋後方移動術(push back法)は、粘膜骨膜弁に大口蓋動脈が含まれているので血行にすぐれていますが、口蓋弁の十分な後方移動をはかることにより、口蓋前方の骨露出創面が瘢痕拘縮することで、上顎骨に発達障害をきたしやすいです。そうした上顎骨の発達障害を最小限に抑える方法としては、骨膜を剥離しない粘膜弁法や口蓋の閉鎖を二期的に行う二段階口蓋形成術などが挙げられます。
口唇口蓋裂への多様なアプローチ
口唇口蓋裂の人は、歯並び・噛み合わせが悪くなりがちです。なぜこんな場所に歯があるのかと驚かされることは多々あります。とくに注意が必要なのが上顎の劣成長です。小さい頃にはまず歯をきれいに並べてあげて、上顎の成長を正常化させます。大人になってからは骨の移植やインプラントによる補綴治療などを行います。場合によっては、私たちが普段行っているような顎変形症の手術を実施して、症状の改善をはかるそうです。こうした「ザ・医療」といった治療を行っている先生と自分とを比較して、格の違いを見せつけられた気持ちになりました。同時に、とても良い刺激をいただけたと感じております。
最後に、札幌医大が今行っている研究の画像をいくつか掲載します。上顎骨の位置決めをする際のプロセスで、大変勉強になりました。同門会が終わったあとは、研修医の先生たちとお話をして、若い方々からエネルギーをいただきました。とても充実した札幌の夜を過ごすことができました。
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