レジンマウント法について
こんにちは、総院長の東海林です。
今回は前回に引き続き田村元先生が考案したレジンマウント法についてお話させていただきます。
>>前回「フルパッシブ矯正とシザーズバイトの矯正治療について」
レジンマウント法とは
レジンマウント法とは、咬合面(主に小臼歯・大臼歯咬合面)にレジンプレートを合着することによって咬合を一時的に高くする方法です(レジンプレートについてはレジンマウントと称します)。
矯正中の咬合挙上を目的とする場合、他にはレジンを直接盛り付けるレジン築造やバイトターボ・バイトプレートなどがあります。
レジンマウント法のメリット
レジンマウント法は他の方法と比べて、以下のような特徴やメリットがあります。
■臼歯部が圧下されにくい
歯に材料を築造すると、その部分に咬合力が集中して、歯が押されて下がってしまうことがあります。
これを圧下と言います。
圧下されると、咬合挙上量が足りなくなったり、歯や歯ぐきにトラブルが起こったりする可能性があります。
レジンマウント法で臼歯部が圧下されにくい理由
・咬合負担領域の広さ
どれだけ多くの歯で咬合力を分散させられるかということです。
レジンマウント法では、小臼歯から大臼歯までを負担域にすることができます。
これは、人間が本来28本の歯で咬むことを考えると、理想的な状態です。
他の方法では、大臼歯部や前歯部に限定されることが多く、過重負担となってしまいます。
・下顎臼歯部での負担
レジンマウント法では基本的に下顎に入れます。
これは、次のような理由からです。
- 下顎骨の方が上顎骨よりも強度が高い
- 下顎小臼歯部が低位になっていることが多い
- 下顎の方が操作性が良い
上顎に入れる場合は、上顎が圧下されやすくなります。
・材料の硬度
どれだけ材料がすり減りやすいかということです。
レジンマウント法では、常温重合レジンという硬度の低い材料を使います。
メリットは以下二つ。
- 咬合力が材料の磨耗に消費されるため、歯牙の圧下に消費される力が減る
- 材料の磨耗を考慮して、ある程度余裕をもって咬合挙上することができる
ただし、硬度が低いことは表裏一体であり、摩耗が早いことで、
咬合挙上量が足りなくなり、再度咬合挙上が必要となる場合もあります。
そのため、レジンマウント法では定期的なメンテナンスが必要です。
■咬合が安定し、比較的食事等がしやすい
レジンマウント法のもう一つの特徴は、臼歯部咬合面に対合歯による凹凸ができやすいということです。
これをディンプルと言います。
ディンプルは、以下の効果があります。
- 咬合力を分散させる
- 咬合面の滑りを防ぐ
- 咬合位置を安定させる
レジンマウント法では、材料の硬度が低いため、自動的にディンプルが深くなります。
よって、次のようなメリットがあります。
- 術者の技量に依存しない
- 患者の自然な咬合位置に合わせる
- 咬合調整の回数を減らす
レジンマウント法を用いた患者さんの中には、装着直後に咬合のしにくさを訴えることもありますが、次回来院時には食事のしにくさ等、問題を訴えることはほとんどありません。
■各個人がもつ自然な顎位へと誘導される
レジンマウント法の最大のメリットは、各個人がもつ自然な顎位へと誘導されるということです。
顎位とは、上顎と下顎の位置関係のことです。
顎位が不安定だと、以下の可能性があります。
- 歯並びや噛み合わせに影響する
- 顎関節や筋肉に負担をかける
- 頭痛や肩こりなどの症状を引き起こす
レジンマウント法では、小臼歯から大臼歯までをフラットテーブルにすることで、固定性のスプリント効果を得ることや材料の硬度が低いことで、自動的にディンプルが深くなり、患者の自然な咬合位置に合わせるという方法で、適切な顎位へと誘導します。
これは、次のようなメリットがあります。
- スプリント療法や咬合調整を行わなくても良い
- 治療中や治療後の顎位変動を防ぐ
- 顎関節や筋肉への負担を軽減する
レジンマウント法と交叉咬合の改善
交叉咬合を改善するためには、逆被蓋部(上顎の歯が下顎の歯よりも内側になっている部分)に材料を入れて、咬合挙上を行う必要があります。
交叉咬合の改善に適した方法である理由は以下です。
■顎位を模索しながら治療することができる
交叉咬合の場合、逆被蓋部が早期接触し、そこから滑り込むようにして咬頭嵌合位(歯と歯が最も深く咬み合う位置)へと導かれるため、顎位が不安定です。
そのため、被蓋改善時に顎位を確認しながら治療することが重要です。
レジンマウント法では、材料の硬度が低いため、自分の咬合力によってディンプル形成が自然に行われます。
メリット
- 術者の技量に依存しない
- 患者の自然な咬合位置に合わせる
- 咬合調整の回数を減らす
■追従性が高く、歯を動かしやすい
追従性とは、歯列不正を改善するためにワイヤーで歯を動かす際に、ブラケットとワイヤーの間にどれだけ遊び(play)があるかということです。
遊びが多いほど追従性が高くなります。
レジンマウント法では下記の特徴があります。
- スロット内のワイヤーとスロット内壁間に遊び(play)が存在する
- 歯根膜の被圧変位量より大きい遊び(play)の存在により、生理的な咬合状態に近くなる
メリット
- ブラケットやワイヤーへの負担を減らす
- 歯牙や歯根膜への負担を減らす
- 歯の動きをスムーズにする
■顎関節や筋肉への負担を軽減する
交叉咬合の場合、顎位が不安定であるため、顎関節や筋肉にストレスがかかり以下のような弊害があります。
弊害
- 顎関節症や筋肉痛を引き起こす
- 頭痛や肩こりなどの症状を引き起こす
- 咬合挙上量が足りなくなる
しかしレジンマウント法では、各個人がもつ自然な顎位へと誘導されることで、以下のようなメリットがあります。
メリット
- 顎関節や筋肉のバランスを整える
- 無理のない筋肉位へと誘導する
- 咬合挙上量を安定させる
レジンマウント法とフルパッシブ矯正
フルパッシブ矯正とは、ワイヤーをブラケットに固定するために、リガチャーワイヤーやエラスティックモジュールといった結紮材を使わない矯正法です。
レジンマウント法は、フルパッシブ矯正に適した方法です。
レジンマウント法を使った場合のメリットについては以下です。
■スロット内のワイヤーとスロット内壁間に遊び(play)が存在する
これは、フルパッシブ矯正とレジンマウント法の共通点です。
遊び(play)があることでのメリットは以下です。
- 追従性が高くなる
- 歯牙や歯根膜への負担を減らす
- 歯の動きをスムーズにする
■生理的な咬合状態に近くなる
歯根膜の被圧変位量より大きい遊び(play)の存在によるものでこれは、歯牙や歯根膜への負担を減らします。
■各個人がもつ自然な顎位へと誘導される
レジンマウント法の最大のメリットです。
レジンマウント法では、小臼歯から大臼歯までをフラットテーブルにすることで、固定性のスプリント効果を得ることができます。
メリット
- スプリント療法や咬合調整を行わなくても良い
- 治療中や治療後の顎位変動を防ぐ
- 顎関節や筋肉への負担を軽減する
またレジンマウント法では、材料の硬度が低いため、自動的にディンプルが深くなることでもメリットがあります。
- 術者の技量に依存しない
- 患者の自然な咬合位置に合わせる
- 咬合位置を安定させる
つまり、レジンマウント法では術者が誘導して顎位を決定するのではなく、患者本人が自分自身で顎位を誘導して決定することになります。
これは、自然と骨格や口腔周囲筋肉などと調和のとれた無理のない筋肉位へと誘導され安定性の高い矯正治療を行うことができるということになります。
このような方法を考案された田村先生のお話は臨床の参考になり拝読しております。
ではまた次回お楽しみに。
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